内製化人材戦略

内製化の壁

システムの内製化が重要ということは、どこでも聞くと思う。しかし、具体的に内製化していくための段取りを整理して教えてもらうのは難しいのかもしれない。業種業態によって様々なケースが存在するからである。内製化を成功させるには、単に技術的な知識だけでなく、組織全体での戦略的な取り組みが不可欠となる。

経営コミット

システム開発の内製化を行っていくには、まず経営層からのコミットメントが必要不可欠である。これが必要であるから諸外国ではCRO(Chief-Revenue-Officer)という部門を横断した権限を持つ人を据えている。その上で、まず内製化の目的を明確にする。おおむねコスト削減、スピード向上、ナレッジ蓄積などであろう。目的がきまると、企画、開発、保守、インフラなどのどの範囲で内製化するのが見えてくる。組織全体での合意形成が内製化成功の基盤となるのである。

失敗回避策

よく聞く失敗例では、権限のないIT戦略室、デジタル推進部などを作ってしまうことである。あるいは、適切な人員の配置や育成がなされないパターンも同様である。大きな権限を持つことになることを前提に考えると、実施するプロジェクトについても小さなプロジェクトにおいて実績を積み上げたほうがいいだろう。たとえば、小規模低リスクである業務改善ツール(例:Power AppsやExcelマクロ)から市民開発を実施していくなどを計画することをお勧めする。段階的なアプローチが組織の信頼獲得につながる。

仕組み化

小さなプロジェクトで実績を積むと、こなれてきてしまうため、やはり属人化の危険性が伴う。ここで、いかに永続的に考えることができるか、内製化のための仕組みを構築できるかは、システム開発経験者などの知見のある人も交えて人材育成に取り組むべきである。定期的な振り返り(レトロスペクティブ)やナレッジ共有会、現場からの改善提案を吸い上げる文化を育て、仕組化していく。持続可能な内製化には組織文化の変革が欠かせない。

まとめ

開発基盤とガバナンス整備、ソース管理やドキュメント管理などの定性的な内製化は簡単に作ることができる。しかし、そのマインドや仕組み、自然とDevOpsをはじめとしたPDCAサイクルにもっていくには、システム知見だけでも難しくある。持続的な内製化にたどり着くためには最初の企画や構成段階で知見をもつメンバーを入れておくのがよいだろう。

関連記事

Excel業務のDX化は本当に必要か

DX化の現状

多くの企業でExcel業務のDX化が話題になっている。「Excelは古い」「すぐにシステム化すべき」という声も聞かれるが、本当にすべてのExcel業務をDX化すべきなのだろうか。実は、やみくもなDX化は逆効果になることも少なくない。Excel業務のDX化には正しい順序と判断基準が必要である。本記事では、DX化の利点を理解しながら、適切なアプローチについて考えていく。

DX化の利点

Excel業務をDX化することで得られる利点は確かに多数ある。まず、データの一元管理により情報の正確性が向上し、複数人での同時編集や更新作業がスムーズになる。次に、自動化による作業時間の大幅な削減が可能である。手作業で行っていた集計や転記作業から解放されることで、より付加価値の高い業務に時間を使えるようになる。さらに、データ分析の高度化により、経営判断のスピードと精度が向上する。これらの利点は、企業の競争力強化に直結する重要な要素である。

DX化の落とし穴

しかし、DX化を急ぐあまり失敗するケースも多く見られる。業務フローが整理されていない状態でシステムを導入すると、非効率な業務がそのままシステム化されてしまう。また、現場の声を聞かずにツールを選定すると、使いにくいシステムが現場に定着せず、結局Excelに戻ってしまうこともある。さらに、すべてを一度に変えようとすると、従業員の負担が大きくなり、業務が混乱する。投資したコストに見合う効果が得られず、DX化自体が目的化してしまう危険性もある。適切な準備なしのDX化は、かえって生産性を下げる結果を招くのである。

正しい進め方

Excel業務のDX化を成功させるには、段階的なアプローチが不可欠である。まず、現状の業務フローを可視化し、本当に必要な作業とムダな作業を明確に区別する。次に、Excelで十分な業務と、システム化すべき業務を見極めることが重要である。すべてをシステム化する必要はない。その上で、優先順位をつけて小さく始め、効果を確認しながら展開していく。従業員のITリテラシーに応じた教育も並行して行うことで、スムーズな移行が実現する。DX化は手段であり目的ではない。自社の状況に合わせた最適な方法を選ぶことが、真の業務改善につながるのである。

まとめ

Excel業務のDX化は、正しく進めれば大きな効果をもたらすが、順序を誤ると逆効果になる。利点を理解しつつ、自社の状況を冷静に分析し、段階的に進めることが成功の鍵である。やみくもなシステム化ではなく、業務改善を第一に考えた戦略的なアプローチを取るべきである。

続きを見る >

なぜベトナムは比較的ライトウェイトなWeb開発に向いているか

導入

Web開発は様々な分野が存在しますが、ベトナムは比較的ライトウェイトなWeb開発に適していると言えます。本記事では、Web開発のいくつかのカテゴリについて検討し、ベトナムでのオフショア開発の適性について評価します。

カテゴリ1: 古典的なホームページ開発

古典的なホームページ開発について考えます。現在でも、完全なスクラッチでのホームページ開発が行われることもありますが、一般的にはWordPressなどのフレームワークが使用されることが多いです。このカテゴリについては、利点と欠点がありますが、ベトナムがオフショアに向いているかどうかは、まずは中立的な評価となります。

まず欠点から述べると、デザイン要素が大きいために海外での開発には向いていないと言えます。企業のウェブサイトや商品紹介ページ、ランディングページなどは、マーケティングの観点からデザイン要素が重要です。これらはウェブ開発やHTMLの問題ではなく、デザインの問題であり、プロジェクトの規模的に技術的な開発とデザインの分野が結合していることも多いです。このようなプロジェクトを海外にアウトソースすることは適切ではありません。ベトナムであろうと他の国であろうと、同様の理由が当てはまります。また、ベトナムの開発会社が日本語に堪能であっても、最も難しい分野を外国人に依頼していることを考えるべきです。

一方で、利点について考えましょう。デザインとウェブ開発の分業体制が進んでおり、古典的なホームページ開発の事例は少なくなってきています。従って、ある程度の分業体制が整っている場合は、一部をベトナムにアウトソースすることは合理的です。具体的には、デザイン部分を日本国内で行い、コーディングのみをベトナムで行う方法が考えられます。また、WordPressの記事やショッピングのCMSにおける商品加工など、既にデザインがテンプレート化されている場合もあります。Webは様々な使い方ができるため、適切な開発方法を選ぶためには、日本国内でキャリアのある人材を選択することが重要です。しかし、開発のシステム化を進める企業にとっては、一部の工程をアウトソースすることは有益です。

カテゴリ2: アプリケーションのウェブインターフェース

次に、アプリケーションのウェブインターフェースについて考えます。システムの本質的な価値はデータベースにありますが、検索や編集、書き込みなどにウェブ技術が使用されることは一般的です。また、これはスマートフォンアプリの開発にも大きく関連しています。特にビジネス用途のスマートフォンアプリは、実際にはサーバーやデータベースへのウェブインターフェースに過ぎないことが多いです。

このような開発においては、ベトナムが向いています。デザイン要素や言葉の使い方についてあまり心配する必要がなく、英語で開発しても大きな影響はありません。正確な判断基準を明確に整理できることが、現実的には最も簡単です。過去には、ウェブをシステムのインターフェースとして使用する方法には多くのノウハウが必要でした。例えば、JavaScriptを使ってカレンダーをポップアップさせたり、メールの文字化けに対処するための独自のルールが存在しました。しかし、Bootstrapなどのライブラリ化により、これらの問題は解決されました。そのため、ベトナムのエンジニアの若さや素早さを活かして、新しい技術を学びながら開発を進めることが可能です。

ただし、このような開発には継続性がないという問題もあります。長期間にわたって使用されるシステムではありますが、このような仕事には継続性が求められません。したがって、最適な解決策が存在しない場合でも、状況に合わせて適切な方法を見つける必要があります。

結論

ベトナムは比較的ライトウェイトなWeb開発に向いていると言えます。古典的なホームページ開発においてはデザイン要素が重要であり、海外にアウトソースすることは適切ではありません。しかしその開発工程において分業化や標準化がすでになされている場合は、オフショア開発を検討することは有益でしょう。また、ビジネス用途のアプリケーションのウェブインターフェースにおいては、ベトナムのエンジニアが若さと素早さを活かして開発を進めることができます。
これらの開発においては、WordPressやBootstrapなどのツールやフレームワークを活用することで効率的な開発が可能です。企業のシステム開発においては、オフショア開発の一部を活用することで生産性を向上させることができるでしょう。

続きを見る >

相場の不在

開発の相場観

相場とは、一般的に市場で競争売買によって決まる商品の価格とされているが、ことシステム開発においては、相場というものが存在しない。

比較の難しさ

比較できる同じものであれば競争原理が働き相場が構築されるが、フルスクラッチされるシステム開発においては全く同じものができることはない。しかも、出来上がるものはパッケージシステムやSaaSの利用以外は、未来にしか完成しないので当然比較もできないものとなる。

将来要件判断

比較的ないからこそ、しっかりと吟味する必要があるが、吟味する材料や条件などは現時点で明確になるものが元となる。未来に発生する追加条件や変更される環境などはジャッジする時点にはすべて出そろわないという難しさがある。

変化への対応

システム開発は未来にどのような条件変更やルール変更が行われるかわからないものであるという認識を持つことが大切である。その上で最善のジャッジを行うべきである。その判断は過去を遡って正解か間違いかを評価すべきではない。

まとめ

日本では原点方式の人事評価が行われるため、イノベーションは起こりにくい本質的な問題がある。これを無視して「DXだ」といっている組織があるとすれば、それは本質を見誤っているといえる。

続きを見る >