ノウハウはタダじゃない

IT導入の難しさ

IT導入では、どの程度のコストをかけるべきか、その費用がどのように効果を生むかの判断が難しい場面が多い。正解が存在しないため、常に試行錯誤が伴うのが実情である。導入後も改善や調整が続き、理想の形を追い求めて進化し続ける必要がある。これこそが、IT導入のハードルを高める最大の要因である。

「導入=完成」の落とし穴

「導入すれば終わり」と考えると、ITプロジェクトは失敗しやすくなる。IT導入には明確なゴールがないため、段階的なチェックポイントの設計が重要となる。導入途中で要件が変化することも少なくないが、それを「失敗」とみなすのではなく、「成功への第一歩」と捉えるべきである。柔軟な対応と継続的な見直しこそが、成果につながる道である。

見積もりが難しい理由

目に見えるモノを作る場合とは異なり、ITシステムの見積もりには高い不確実性が伴う。業務の関連性、将来的な拡張性、外部環境の変化など、検討すべき要素は無数に存在する。したがって、本格的なIT導入には、実際の開発にかかる時間の2倍ほどの準備期間を設ける覚悟が必要である。余裕を持つことが、後のトラブル回避にも直結する。

DXがカオスになる訳

システム構築やDXのプロジェクトは、時間の経過とともに当初の目的を見失いやすい。最初に定めた要件が現場の混乱の中で忘れ去られ、後から新たな要求が持ち込まれることで、プロジェクトが迷走していく。現場も対応に追われ、全体が混沌としていく。こうした事態を避けるには、目的の定期的な再確認と明確な進行管理が不可欠である。

まとめ

ITに苦手意識があるからといって「なんとかしてくれ」と丸投げする姿勢では、プロジェクトは成功しない。目的や進捗のチェックポイントといった、数値化できないノウハウの積み重ねこそが、成功への鍵となる。

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フルスクラッチは体力

開発手法の選択

フルスクラッチかパッケージか、最近ではSaaSなどもシステム構築の検討に入る。実は開発手法やツールよりも、どのようなシステムで、どれくらいの規模のシステム開発会社が担当するかが重要である。

SESのリスク

人数が多い会社であればあるほど安心感があってよいと安易に考えることは適切ではない。なぜなら、SE派遣やSESと呼ばれる人月(人工)単位で売り上げの経つ会社には技術の総合力がないからである。

技術の総合力

技術の総合力とは、SE作業やプログラミング作業などの1人で対応できる技術力を差すのではなく、システム構築やシステムの運用全般における最適手段を考えることができる能力のことである。

表層の即効性

SE派遣やSESの付加価値はその人単体のプログラミング能力に偏るため、一見対応がよく、何も問題がないように思える。しかし、これが技術的負債を作ってしまうひとつの要因でもある。

まとめ

フルスクラッチを考えるなら、SESを中心としないシステム会社で且つ人数規模も多い方がよい。安価にフルスクラッチでシステムを構築してしまうと、メンテナンスや運用でしっぺ返しが待っている。時間が経つごとにシステム保守費用が高くなるのである。

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思考と決断のPM力

PMの真価

スキルシート上にあるPMというのは、どういった開発言語や開発環境などを使ってきたかという内容であることが多く、SEの延長という意味合いが強く残っている。もし、期待するポジションが発想力や提案力にあるとすれば、姿勢をみることが大切となる。

従順の呪縛

就職氷河期と呼ばれる世代より上の年齢層では、常に従うことを幼少期から叩き込まれていると考えられる。日本では「禁止」か「許可」かを常に意識しながら仕事をしており、「許可されるまでは禁止されている」と考えているのではないかと推察される。

失敗からの成長

正しいか、間違っているか、の判断基準しか持ち合わせていない場合、何か問題が発生したときに時間を遡ってどこで判断を間違えたのかを追求する。それは大切なことであるが、実際のプロジェクトでは誤ったことを反省しつつ修正しながら進むことが大切である。

判断力の真髄

エンジニア出身のPM(開発プロジェクトのPM)だと、禁止か許可かというデジタルのような見方をしている人もいる。特に今日のシステムに関するプロジェクトでは、ゼロかイチだけでは判断できないような、ウエットでアナログな状況判断が必要となる。

まとめ

たとえ能力の高いPMだったとしても、仕事になると発想することや作ることの楽しみより、ミスによる懲罰を恐れたりするために、無難で当たり障りのない判断をしがちである。システムに関するプロジェクトがなかなか前へ進まない理由でもある。

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生成AIは使えない?

思い通りにならない理由

生成AIを導入したのに思ったような結果が得られない――そんな経験をしたことがある人も多いだろう。AIは進化を続けているが、それを使いこなす側にも試行錯誤が求められている。特に企業においては、社内情報を整理すればするほど目的の答えに辿り着けなくなる「RAGの沼」にハマることがある。多くの企業が生成AIを武器にしようとしているが、その真価を引き出すには、正しい導入と運用が欠かせない。

RAGとは何か

RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、「検索」「拡張」「生成」の頭文字を取った技術であり、生成AIに独自情報を与えることで回答の精度を上げる手法である。インターネット上の情報だけでなく、社内マニュアルや業務データなどを取り込むことで、より業務に即した回答が可能になる。ただし、期待する結果が得られない場合、その原因は提供リソースの質や構造にある可能性が高い。

ChatGPT以外の選択肢

現在、生成AIとして多くの大規模言語モデル(LLM)が存在する。OpenAIのChatGPTをはじめ、AnthropicのClaude、GoogleのGemini、MetaのLLaMA、Mistral、Cohere、さらにAlibabaやBaiduといった中国系ベンダーもある。それぞれに強みがあり、RAGに適したモデルも存在する。たとえばCohereのCommand R+やMistralのMixtralなどが代表的だ。目的に応じてLLMを選び、最適な環境を整えることが重要である。

社内AIを成功させるには

セキュリティ上の理由から、社内情報をインターネットに出せない企業も少なくない。その場合、オンプレミス環境(社内ローカル)に生成AIを構築する選択肢がある。たとえばTinyLLaMAやPhi-2のような軽量モデルから、Nous HermesやMixtralなどの対話・RAG対応モデルまで選択肢は豊富だ。これらを活用すれば、外部にデータを出さずともAIの恩恵を享受できる。必要なのは、自社の目的と環境に適した判断力である。

まとめ

生成AIはあくまで「道具」にすぎない。導入しただけで目的が自動的に達成されるわけではない。課題を定義し、適切な情報を整備し、それを使いこなす力が必要だ。RAGがうまくいかないと感じたら、その原因はリソースや設計のミスマッチにあるかもしれない。

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