ベトナムオフショア開発に向く3つのプロジェクトと、向かない3つのプロジェクト

ベトナムに向くプロジェクトの特徴

ベトナムへのソフトウェアのオフショア開発については昔から肯定的な意見と否定的な意見があります。昨今のベトナムの人件費の向上と日本の人件費の低下、そして円安もあり、コストダウン効果が見込めなくなってきています。しかし、単に海外オフショア開発が良いか悪いかという単純な問題ではなく、ベトナムの特徴を踏まえて、どのようなプロジェクトが向いているのか見極めることが重要です。本記事では、ベトナムにおけるオフショア開発に向く3つのプロジェクトと、向かない3つのプロジェクトを紹介します。

ベトナムに向くプロジェクト

1. 生産拠点や流通拠点を持つERPシステム開発

日本企業がベトナムに自社の生産拠点や流通拠点を持ちそのためのERPシステムを開発する場合、ベトナムは適した場所と言えます。ベトナム企業はベトナムの市場に精通しており、日本企業もベトナムの物流や製造現場に慣れています。また、ERPシステムの構築経験も蓄積されており、ベトナムのソフトウェア業界は成熟しています。さらに、ベトナム人の日本語通訳者の能力も向上しており、生産や流通に関わる日本語も習得しています。このような環境下でのERPシステム開発は、効率的かつ円滑に進めることができます。

2. ライトなWeb開発など経験を必要としない開発分野

技術の進化が激しいWeb開発など、比較的ライトで長年の経験を必要としない開発分野においても、ベトナムは適した場所と言えます。これらの分野では、若くて習得の早い技術者が求められます。ベトナムの技術者は熱意を持ち、新しい技術の習得に積極的です。また、技術自体も日本やベトナムといった特定の地域に依存せず、汎用性の高いものが多いため、ベトナムの技術者との協力により効果的な開発が行えます。

3. BPO的なプロジェクトでの教師モデル開発や画像タギングなど

ベトナムはAIにおける教師モデルの開発や画像のタギングなどのBPO的なプロジェクトにも適しています。ベトナムの基礎教育レベルは高く、労働者の字の読み書きやPCの使用能力に問題はありません。また、ベトナムはピラミッド型組織を構築しやすい文化的環境が整っているので大量生産に向いています。これらの要素を活かして、BPO的なプロジェクトをベトナムで展開することは効果的です。

ベトナムに向かないプロジェクト

1. コストダウンが目的のインクルーシブなプロジェクト

単純なコストダウンが目的のインクルーシブなプロジェクトは、ベトナムにとって戦略的な選択肢とは言えません。最初は若くて安いエンジニアを投入することで一時的なコストダウン効果を得るかもしれませんが、時間が経つにつれて人件費が上昇し、コストが増加してしまいます。また、ベトナムのエンジニアも自身のキャリアパスを考えるため、離職率が高く、人材の取り替えが困難になる場合もあります。

2. AIなど最先端技術のラボラトリーとしてのプロジェクト

ベトナムはAIなどの最先端技術のラボラトリーには向いていません。ベトナムは積極的な技術開発を行っていますが、他の国々も同様に積極的であり、特にアドバンテージがあるわけではありません。また、最先端技術になるほど人件費が高くなり、ベトナム価格でも他の国と競争することが難しい場合があります。このような背景から、ベトナムにおける最先端技術の開発には慎重な判断が求められます。

3. 最終消費者向けのセールスやマーケティングシステム

最終消費者向けのセールスやマーケティングシステムは、ベトナムとの文化や商習慣、法律、税制などの違いにより、開発が困難となる場合があります。ベトナム側で日本のマーケットに適したシステムを開発することは難しく、逆に日本側でもベトナム市場に合わせたシステムを構築することは容易ではありません。ただし、バックエンドのシステムに関しては国による違いは少ないため、ERPのようなバックエンドのシステム開発はベトナムでも適しています。

以上がベトナムにおけるオフショア開発に向くプロジェクトと向かないプロジェクトの一例です。プロジェクト選定においては、ベトナムの特徴や環境を的確に把握し、ベターな組み合わせを選ぶことが成功への重要な戦略となります。

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生成AIは使えない?

思い通りにならない理由

生成AIを導入したのに思ったような結果が得られない――そんな経験をしたことがある人も多いだろう。AIは進化を続けているが、それを使いこなす側にも試行錯誤が求められている。特に企業においては、社内情報を整理すればするほど目的の答えに辿り着けなくなる「RAGの沼」にハマることがある。多くの企業が生成AIを武器にしようとしているが、その真価を引き出すには、正しい導入と運用が欠かせない。

RAGとは何か

RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、「検索」「拡張」「生成」の頭文字を取った技術であり、生成AIに独自情報を与えることで回答の精度を上げる手法である。インターネット上の情報だけでなく、社内マニュアルや業務データなどを取り込むことで、より業務に即した回答が可能になる。ただし、期待する結果が得られない場合、その原因は提供リソースの質や構造にある可能性が高い。

ChatGPT以外の選択肢

現在、生成AIとして多くの大規模言語モデル(LLM)が存在する。OpenAIのChatGPTをはじめ、AnthropicのClaude、GoogleのGemini、MetaのLLaMA、Mistral、Cohere、さらにAlibabaやBaiduといった中国系ベンダーもある。それぞれに強みがあり、RAGに適したモデルも存在する。たとえばCohereのCommand R+やMistralのMixtralなどが代表的だ。目的に応じてLLMを選び、最適な環境を整えることが重要である。

社内AIを成功させるには

セキュリティ上の理由から、社内情報をインターネットに出せない企業も少なくない。その場合、オンプレミス環境(社内ローカル)に生成AIを構築する選択肢がある。たとえばTinyLLaMAやPhi-2のような軽量モデルから、Nous HermesやMixtralなどの対話・RAG対応モデルまで選択肢は豊富だ。これらを活用すれば、外部にデータを出さずともAIの恩恵を享受できる。必要なのは、自社の目的と環境に適した判断力である。

まとめ

生成AIはあくまで「道具」にすぎない。導入しただけで目的が自動的に達成されるわけではない。課題を定義し、適切な情報を整備し、それを使いこなす力が必要だ。RAGがうまくいかないと感じたら、その原因はリソースや設計のミスマッチにあるかもしれない。

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開発費用値下げの危険性

開発手法の選択基準

大がかりなシステム開発においては、ウォーターフォールモデルという開発手法がとられ、設計書などのドキュメント類も整理してから、プログラミングへ着手する。逆に中小規模なシステム開発においては、アジャイル開発と呼ばれ、プログラミングをしながらシステム開発が進められたり、ドキュメント類は簡易にして、プログラミング工程へ着手するといった方法がとられる。状況に応じて開発手法は使い分ける必要がある。

設計書の必要と課題

建築では図面なく建物を建てることはないが、中小規模のシステムについては簡単な概要だけでシステムの開発ができてしまう。もちろん設計書をしっかりと書いて、要件を詰めてシステム開発を進めることができれば、トラブルもなくていいのではないかと言われる。しかし、設計書を作成するにはシステムをプログラミングすることと同じくらい費用が掛かる。

設計書の粒度と要因

中小規模のシステム開発において設計書が簡易になってしまう理由は、ユーザー側や発注側の予算が乏しいという理由がある。建築のパターンの場合は、法律によって作成しなければならない図面や、施主から同意をもらうべき書類などが決められている。システム開発には法的に作成しなければならない書類が明確にされているわけではないため、この粒度が各社・各エンジニアによりバラツキが発生する。

文書管理の現状

中小規模のシステム開発において、最悪の場合は設計書がないケースもある。小さなプロジェクトの場合は予算も少なく特にドキュメント類がないが多くある。あるいは、システムはアップデートされ続けているのにドキュメントはアップデートされていなかったり、ひどい場合にはシステム保守ベンダーが紛失している場合もある。

まとめ

システム開発に時間がかかる理由は、設計書から作成することでプログラミング作業の2倍以上の時間がかかると言われる。いわゆる動作検証の工程まで入れるとプログラミング作業の3倍程度は時間がかかる。また、システム開発はほとんどが人件費である場合が多く、かかる時間に応じて費用が上がる。つまり、非エンジニアが単純に開発費用を値切ると、プログラミング以外の重要な情報を削っていくことになる。

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マクロからPower Appsへ

ゾンビファイル

今から十数年前に作られたExcelやAccessでのマクロプログラムが今もなお残り続けている。表計算ソフトと呼ばれるデータベースに似たツールを背景にユーザーインターフェースやロジックを付け足したものである。もはやゾンビファイルと言っても過言ではない。これらのシステムは当初の目的を果たしていても、時代の変化とともに保守性や拡張性に大きな課題を抱えるようになっている。

作成者不明問題

社内に残る通称「マクロ」は、今はいない人が作成していたり、一部の人が独自に作ったものであることが多くある。作った人がいる場合はまだしも、退職している場合はその中のプログラムも見ることができないので、いつ止まるか分からないシステムを業務の中心で使い続けていくことになる。このような状況では、エラーが発生した際の対処法が不明で、業務継続に深刻なリスクをもたらす可能性がある。

市民開発解決法

ブラックボックス化したマクロを情報システム部に解決をお願いするのではなく、市民開発にて解決するには多少のコツが必要になる。ポイントは完全にブラックボックス化している状態や、何から手を付けていいか分からない状態のマクロ群は、残念ながらまずは専門家に情報の整理を依頼することが必要になるだろう。自社だけでの解決を試みる前に、適切な専門知識を持つパートナーとの連携を検討することが成功への近道となる。

専門家活用法

専門家に依頼したほうがいい理由として、マクロファイルの解析だけを切り離した作業としてしまうと、その後の市民開発へ繋ぎにくくなるからである。マクロファイルのインプット/アウトプットを解析した上で、それをどのように今後の市民開発のベース作りに活かすのか。ITコンサルやシステム開発会社の腕の見せどころである。単純な解析作業ではなく、将来的な発展性を見据えた戦略的なアプローチが求められる領域といえるだろう。

まとめ

ExcelやAccessはMicrosoft社の製品であるので、そのままMicrosoft社が提供するPower PlatformやPower Appsへの移行がスマートである。間違ってもマクロをスクラッチ開発でのWebシステムに移管すべきではない。親和性の問題や閲覧性などに課題がのこることが多いようである。

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