オフショア開発発注元として日本企業と競合するアメリカ企業に勝つためには

日本企業は、ソフトウェア開発の分野で、アメリカ企業との競争に直面している。特に、ベトナムをオフショア開発の拠点として活用する場合、アメリカ企業の影響力や優位性を無視できない。しかし、日本企業にもベトナム市場で勝ち残るための強みや戦略がある。本記事では、アメリカ企業のベトナムへのオフショア開発と、日本企業のベトナムへのオフショア開発を比較し、その違いや課題を分析する。

アメリカ企業のベトナムへのオフショア開発の現状

アメリカは、世界最大のソフトウェア市場であり、ITエンジニアの需要も高い。しかし、国内ではITエンジニアの人材不足や高コストが課題となっており、多くのアメリカ企業は海外にオフショア開発を委託している。その中でも、ベトナムは近年注目されているオフショア開発先の一つである。

ベトナムは、東南アジアで最も急速に経済成長している国であり、若くて優秀なIT人材が豊富に存在する。また、人件費も低く、地理的にも日本やアメリカと時差が少ないことなどが、オフショア開発に適した環境となっている。さらに、ベトナム政府はIT産業の育成に力を入れており、税制優遇やインフラ整備などを行っている。

これらの要因から、ベトナムはオフショア開発市場で高い競争力を持っており、多くの国から注目されている。特に、アメリカからは大手IT企業やスタートアップ企業が相次いでベトナムに進出しており、オフショア開発だけでなく、自社製品やサービスの開発や販売も行っている。例えば、マイクロソフトやIBMはハノイやホーチミン市に研究開発センターを設置し、AIやブロックチェーンなどの先端技術を活用したプロジェクトを展開している。また、グーグルやフェイスブックはベトナム市場における自社サービスの普及に力を入れており、ローカライズやマーケティングを強化している。

こうした動きからわかるように、アメリカ企業はベトナムでオフショア開発を行うだけでなく、ベトナム市場そのものに参入しようとしている。その背景には、ベトナムが持つ巨大な消費者層やビジネスチャンスに対する期待がある。ベトナムは、約1億人の人口を持ち、そのうち6割が25歳以下という若い世代が多い。また、インターネット普及率は約7割であり、スマートフォンやSNSの利用も盛んである。これらの要素は、アメリカ企業にとって魅力的な市場となっている。

日本企業のベトナムへのオフショア開発の現状

日本企業も、アメリカ企業と同様に、ベトナムをオフショア開発の拠点として活用している。日本は、ベトナムにおけるオフショア開発の最大の発注国であり、ベトナムのIT産業に大きな影響力を持っている。日本企業は、ベトナムにおけるオフショア開発の歴史が長く、多くの実績や信頼関係を築いてきた。また、日本とベトナムは文化的にも親近感があり、コミュニケーションやビジネススタイルにおいても相性が良いと言われている。

日本企業は、ベトナムでオフショア開発を行う際に、主に以下の3つの方法を取っている。

  1. ベトナム現地法人や子会社を設立し、自社でオフショア開発を行う
  2. ベトナム現地のオフショア開発会社と提携し、外部委託する
  3. 日本国内のオフショア開発会社と提携し、間接的に委託する

これらの方法にはそれぞれメリットやデメリットがあり、日本企業は自社のニーズや予算に応じて選択している。例えば、自社でオフショア開発を行う場合は、品質管理やプロジェクト管理が容易であるが、初期投資や人材確保などのコストが高くなる。一方、外部委託する場合は、コスト削減やスピード感が得られるが、品質やセキュリティなどのリスクが高まる。

日本企業は、ベトナムでオフショア開発を行う目的として、主に以下の3つを挙げている。

  1. 開発コストの削減
  2. IT人材不足の解消
  3. ベトナム市場への参入

これらの目的にはそれぞれ重要度が異なり、日本企業は自社の戦略に応じて優先順位を決めている。例えば、開発コストの削減を最優先する場合は、安価なオフショア開発会社を選択することが多い。一方、IT人材不足の解消やベトナム市場への参入を重視する場合は、技術力や日本語能力などの条件を満たすオフショア開発会社を選択することが多い。

アメリカ企業と日本企業のオフショア開発の違い

前述したように、アメリカ企業と日本企業は、ベトナムでオフショア開発を行う際に、異なる方法や目的を持っている。このセクションでは、その違いを以下の4つの観点から分析する。

  1. 発注単価
  2. 開発規模
  3. 開発内容
  4. 開発手法

発注単価

オフショア開発の発注単価は、国や企業によって大きく異なる。一般的には、アメリカ企業の方が日本企業よりも高い単価でオフショア開発を行っていると言われている。これは、アメリカ企業が求める品質やスキルが高いことや、アメリカの人件費が高いことなどが理由として挙げられる。

例えば、ベトナムでオフショア開発を行う場合、日本企業の平均的な発注単価は、人月2000ドル~2500ドル程度である。一方、アメリカ企業の平均的な発注単価は、人月3000ドル~4000ドル程度である。このように、アメリカ企業は日本企業よりも約1.5倍~2倍の単価でオフショア開発を行っていると言える。

この単価差は、ベトナムのオフショア開発会社にとっても大きな影響を与えている。高単価の案件を受けることで、利益率を高めたり、人材育成や技術力向上に投資したりすることができる。また、高単価の案件はエンジニアにとっても魅力的であり、優秀な人材を確保しやすくなる。そのため、ベトナムのオフショア開発会社は、アメリカ企業からの案件を優先的に受け入れる傾向がある。

開発規模

オフショア開発の開発規模も、国や企業によって異なる。一般的には、アメリカ企業の方が日本企業よりも大規模な開発プロジェクトを行っていると言われている。これは、アメリカ企業がグローバル市場をターゲットにした製品やサービスの開発を行っていることや、インドなどの大規模なオフショア開発市場に慣れていることなどが理由として挙げられる。

例えば、ベトナムでオフショア開発を行う場合、日本企業の平均的な開発規模は、10人~20人程度のチームである。一方、アメリカ企業の平均的な開発規模は、50人~100人程度のチームである。このように、アメリカ企業は日本企業よりも約5倍~10倍の規模でオフショア開発を行っていると言える。

この規模差は、ベトナムのオフショア開発会社にとっても大きな影響を与えている。大規模なプロジェクトを受けることで、売上や規模を拡大したり、組織やマネジメントの能力を高めたりすることができる。また、大規模なプロジェクトはエンジニアにとっても魅力的であり、多様な経験やスキルを身につけることができる。そのため、ベトナムのオフショア開発会社は、アメリカ企業からの案件を優先的に受け入れる傾向がある。

開発内容

オフショア開発の開発内容も、国や企業によって異なる。一般的には、アメリカ企業の方が日本企業よりも先端的な技術やイノベーションを求めていると言われている。これは、アメリカ企業がグローバル市場での競争力を高めるために、AIやブロックチェーンなどの最新技術を活用した製品やサービスの開発を行っていることや、シリコンバレーなどのイノベーションの発信地に近いことなどが理由として挙げられる。

例えば、ベトナムでオフショア開発を行う場合、日本企業の平均的な開発内容は、製造業や金融業などの既存業界におけるシステム開発や運用保守である。一方、アメリカ企業の平均的な開発内容は、ゲームやECなどの新興業界におけるプロダクト開発やサービス提供である。このように、アメリカ企業は日本企業よりも先端的な技術やイノベーションを求めていると言える。

この内容差は、ベトナムのオフショア開発会社にとっても大きな影響を与えている。先端的な技術やイノベーションを扱うことで、技術力や知識を高めたり、市場価値を高めたりすることができる。また、先端的な技術やイノベーションを扱うことはエンジニアにとっても魅力的であり、やりがいや成長感を感じることができる。そのため、ベトナムのオフショア開発会社は、アメリカ企業からの案件を優先的に受け入れる傾向がある。

開発手法

オフショア開発の開発手法も、国や企業によって異なる。一般的には、アメリカ企業の方が日本企業よりも柔軟かつ効率的な開発手法を採用していると言われている。これは、アメリカ企業がグローバル市場での変化に対応するために、アジャイル開発やDevOpsなどの最新の開発手法を活用したプロジェジェクトを行っていることや、アメリカのIT業界における開発手法の普及度が高いことなどが理由として挙げられる。

例えば、ベトナムでオフショア開発を行う場合、日本企業の平均的な開発手法は、ウォーターフォール型やV字型などの計画的な開発手法である。一方、アメリカ企業の平均的な開発手法は、スクラムやカンバンなどのアジャイル型やDevOps型などの反復的な開発手法である。このように、アメリカ企業は日本企業よりも柔軟かつ効率的な開発手法を採用していると言える。

この手法差は、ベトナムのオフショア開発会社にとっても大きな影響を与えている。柔軟かつ効率的な開発手法を採用することで、品質や納期の管理を改善したり、顧客とのコミュニケーションを強化したりすることができる。また、柔軟かつ効率的な開発手法を採用することはエンジニアにとっても魅力的であり、自律性や創造性を発揮することができる。そのため、ベトナムのオフショア開発会社は、アメリカ企業からの案件を優先的に受け入れる傾向がある。

日本企業が戦略的に狙うポジションはなにか

以上のことから、人材獲得競争において日本企業はアメリカの案件に負けるというのが現実である。

しかしこれは一面だけを見ているところはある。
まずは日本の方がアメリカよりも距離が近く時差も少なく、親近感を抱かれているのも確かだ。
契約によって硬直的にプロジェクトを作るというのは、文化の問題という前に、ソフトウェア開発の手法として適切である場面が限られているのが確かであり、日本風の柔軟なやり方は、かつては非常に曖昧だと言われたこともあるが これはこれで柔軟だという側面も持つ。
またそのような日本企業の仕事文化を好むベトナム人もいる。ベトナムは意外なほど契約社会ではあるが、ベトナム人がメンタルセットとしては日本人に似ているのは確かである。 そのため日本の案件はアメリカ企業に比べてやりやすい、という感覚を持つベトナム人は一定数存在する。
またアメリカ企業の案件は一定のスキルを持つ人たちを要求する事が多いため、経験者や有資格者や高学歴者を優先する傾向にあり、最近では AI などの先端が話題の技術については引っ張りだことなっている。これらのハイエンドな人材の獲得競争について日本企業が勝つことは難しいのだが、逆に言うとローエンドであったり、まだあまり経験がないが勉強はよくできると言ったいわゆる 地頭のいい新卒といったタイプのエンジニアを日本企業は好むというところがある。 これらはアメリカ企業の案件においてはあまり評価されないので、その点で日本の案件とマッチしているところがある。

日本がベトナムでオフショア開発をする場合に、かつてのようにただ日本企業であるだけでよかった時代はもう明瞭に終わった。そして主に金銭的な意味においてアメリカ企業との人材獲得競争に負けつつあるというのが全体的な傾向である。
しかし 全体的な傾向はそうでも 個別にマッチする人材や案件を見ていくと、日本の案件とベトナムの企業との間で上手い組み合わせになるようなものが多いのも確かである。

これから先 ベトナムでオフショア開発をしていこうと考えるところがあれば、アメリカ企業とどのように差別化できるかという観点から ブラッシュアップしてみることは大変有益であろう。アメリカ企業とうまく差別化でき、ベトナム企業との間にうまいマッチングが見出せてるのならば、それは非常に成功する確率の高いオフィシャル 開発 であるというように言えるだろう。

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オフショア開発の変遷と現状

オフショア開発のコストダウン目的

オフショア開発における主要な目的は、プロジェクトの総コストを削減するために人件費を削減することです。日本の開発者の人件費が高いため、ベトナムの開発者と置き換えることで財務的なコストダウンを実現してきました。ただし、外国に発注するということは、品質の低さと言葉の壁という2つの問題がつねにつきまといます。

内部コストと労働者の負担

人件費の削減は財務上のコストダウン効果を直接的に実現しますが、品質の低さや言葉の壁といった問題は現場の労働時間や精神的な負担として現れる内部コストです。これらの内部コストは労働者に転嫁され、営業側が値引きを行い開発現場の労働に影響を与える仕組みとなっています。オフショア開発に対する開発現場からの評判の悪さは、このような直接的な感覚から生じていると考えられます。

品質の向上と言語の壁

品質の低さや言葉の壁は改善の兆しを見せています。20年前と比較すると、通信手段や開発ツールが進歩しました。チャットやビデオ会議、画面共有などの技術が利用できるようになりました。また、クラウドやソースコードの共有などの管理システムも進化しました。言語の壁も同様で、ベトナムにおける日本語の理解力や日本人における英語の能力は向上しています。さらに、機械翻訳の進歩により、外国語を交えながら技術的な会話が容易になりました。

品質と納期の重要性

オフショア開発において品質と納期は重要な要素です。納期を守り、仕様を満たすことが最終的な評価基準となります。優れた開発チームやツールの活用は重要ですが、納期の達成と仕様の達成が果たされなければ、プロジェクトは失敗となります。

新たなオフショア開発の戦略

オフショア開発におけるコストダウンの戦略は、技術の進歩を活用する方向に進んでいます。開発手法として、ウォーターフォール型ではなくジャイルやOSS的な手法を導入することが求められています。また、国際的な標準的なツールやバージョン管理などの利用も重要です。さらに、コミュニケーションの円滑化も不可欠です。言葉の問題だけでなく、コミュニケーションの円滑化は人間によって担保されます。

オフショア開発の変遷において、品質やコミュニケーションの改善は見られますが、人件費の差によるコストダウンは限界に近づいています。技術の進歩を取り入れた新たな戦略の導入により、より効果的なオフショア開発を実現することができるでしょう。

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開発遅延の打開策

システム開発の現状と課題

数名で開発した初期のシステム構築から、システム会社を変更して大がかりなリプレイスを行い、保守運用を実施しているが、月々の費用が高額であるわりに、開発スピードも遅い。開発スピードが遅いため、新しい機能を実装していけない。

不具合と開発の不透明性

リリースから何年も経っているのに不具合がなくならない。開発会社からの報告が曖昧で何にお金を支払っているのか謎のままであることが多い。

コスト削減と資源最適化

開発スピードを上げるには、システム開発コストの削減をしなければならない。コストを削減するということは、それで浮いたコストを開発に割り当てることができるため、結果的に開発スピードがあがることを意味する。

開発の透明性と妥当性

そのためにしなければならないことは、開発工程や開発過程の見える化および妥当性を担保することである。システムの比較検討ができないため、システム開発のコミュニケーションは一般的なものであると思い込んでいる。システム発注の担当者はシステムのことがわからないから、システム開発の進め方に違和感があったとしても技術者が言うことを信用するほかないと思っている。

まとめ

結果として、技術者の工数と称して月々の費用や、ひどいものでは言語のバージョンアップと称して、何もしていないことに費用を支払っていることもある。不明点はシステム発注の担当者が理解できるまで聞くべきである。

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オフショア開発における契約形態の選択と、重要なポイント

オフショア開発には、受託開発、ラボ開発、そして折衷型の3つの契約形態が存在します。それぞれの契約形態には特徴と課題がありますが、最終的にここで「折衷型」と述べているものに集約していく傾向があります。

受託開発契約とその特徴

受託開発契約は、成果物の納品を約束する契約形態です。この形態では、事前に成果物の定義を明確にし、それに基づいて開発を進めます。受託開発契約はソフトウェア開発においてシンプルな形態と言えますが、成果物の定義を明確にすることは容易ではありません。実際の開発作業では、概念上の定義と現実の制約との間で調整が必要となる場合があります。

ラボ開発契約とその特徴

ラボ開発契約は、クライアントが直接開発者に対して指示を出す契約形態です。クライアントは開発者を拘束し、その時間を購入します。この形態は、日本のSES契約に近いものですが、ラボ開発では開発者は非常駐となります。時間単位で開発者の貢献を購入するため、時間の品質によって成果物の品質が保証されるわけではありません。開発者によって同じ時間内でも成果物の差が生じることがあります。

折衷型契約の意義とその特徴

折衷型契約は受託開発契約とラボ開発契約の折衷案として採用されます。この契約形態では、成果物の定義を柔軟にし、一定の作業時間も確保しながら、基本的にボトムアップ型で開発を進めていきます。オフショア開発においては、ビジネスモデルやクライアントの要求を理解し、中核的な開発人材(例えば、ブリッジエンジニア)を確保することが重要です。中核的な人材はクライアントのビジネスについて深い洞察を持ち、長期的な関係を築くことができます。このような中核人材をラボ契約で時間拘束的に確保し、プロジェクトが大型化したときはスポットで追加の受託契約を行い、人を追加で確保するというものです。

折衷案に収斂していく実際のプロジェクト

受託開発としてスタートしたプロジェクトでも、ラボ開発としてスタートしたプロジェクトでも、ベトナムでのオフショア開発が成功し長く続いている案件は、最終的に折衷案に収斂していく傾向があるようです。多くの場合は海外開発拠点は、日本の開発プロジェクトの外付け工場という位置づけになりますので、クライアントのビジネスをよく知った開発者を確保しつつスケーラビリティを確保するという両方が求められることとなり、このような形に落ち着くのでしょう。

もしこの形をゴールとするのならば、下記の2点に注目するのが良いでしょう。

(a) 長期契約が必要なこと:クライアントのビジネスモデルや独自の用語を理解し、本当に重要な要素を把握するためには時間が必要です。クライアントのビジネスに寄り添いながら開発を行うためには、最低でも1年以上の長期契約が必要です。

(b) ブリッジエンジニアを始めとする中核的人材の確保が大切であること:中核的な開発人材は、クライアントのビジネスをよく理解し、ビジネスの要件に応じて開発を進めることができる人材です。彼らは長期的なパートナーシップを築き、クライアントのビジネス成果に貢献します。そのため、オフショア開発においては、ブリッジエンジニアなどの中核的な人材の確保が極めて重要です。

オフショア開発においては、契約形態の選択とビジネス戦略の統合が成功の鍵となります。ビジネスの長期的な視点と中核的な人材の確保を重視することで、効果的なオフショア開発を実現することができるでしょう。

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